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3000文字チャレンジという公式があり、週に1つお題がでます。そのお題にそって、3000文字以上で自由に書くことがこのチャレンジの目的です。写真や画像、動画、文字の修飾もできません。
エッセイ、小説、どんな形式でもかまいませんが、使えるものは文字だけです。ただただ文字で表現するブログを楽しみたい方、お気に入りのブログを見つけてください。

今回のお題は「締め切り」(2020/5/28)


浩一は今日もなんて面白くない日だろうと、気が重かった。プレゼン用の資料にダメ出しを受けた。今回は自分でも自信があったのに。締め切りは2日後だし、余裕をもって提出した。


けれども課長に突き返された。「これじゃまだクライアントを納得させるには足りない。競合に負けるぞ。」「どこがダメなんですか?」「自分で見直してみろ。」


いつもこれだ。1発でOKをもらえたことなど1度もない。もう入社して3年がたった。1回で承認が出るとは思わないけれど、じゃあどこがどういけないのか。具体的に言ってみろ。こうして忙しいばかりで何もできない。こんな毎日じゃ、彼女の一人もできないじゃないか。


浩一の会社は中堅クラスの専門商社だった。メーカーとの連絡、販売先への営業など
個人の仕事の幅も広い。商品に関する知識も常に仕入れておかなければいけない。


やりがいがあるといえば聞こえはいいが、マルチプレーヤーでなければ務まらない。焦る浩一に、同じ課の久美が何か手伝えることがあればと申し出てくれたが、一人で済ませる方が早いと思い不愛想に断った。


今日も残業だ。ビルの警備員が巡回に来る頃、やっと2回目の仕上げも終わり帰ろうとしたところだった。携帯が鳴り、見ると「母」と表示されている。


あわてて出ると祖父が危篤だという。朝1番の新幹線で帰ることにした。不穏な予感にかられ、気は進まなかったが礼服も荷物にいれた。

実家の玄関に入るとたくさんの靴が無造作にならんでいる。早朝息を引き取ったと連絡は入っていたので覚悟していたが、線香の香りやざわざわした人の声、普段と違う空気が漂っていた。


緊張して座敷に入ると、父や親戚が取り囲んだ祖父が横たわっている。みなが浩一を見て口々に声をかけたようだが、何を言っているか耳を通り過ぎる。


「じいちゃん!ごめん!」間に合わなかった想いを言う前に涙があふれだす。初孫でしかも男の子だった浩一を、祖父はことさらに大切にした。


間に合わなかったなあ・・・ごめんよ。わかるうちに来たかったよ。じいちゃんの声が聞きたかった。何度も心の中でつぶやいた。けれど祖父はその人生を終えたのだ。


「浩一、ちょっと」母に呼ばれ、台所へいくと近所の人が軽い食事を用意してくれていた。父もいる。「疲れてるとこ悪いけどな、お前ももう大人だしうちの長男だから、みんなの打ち合わせにも一緒に出ろよ。」


そういえば、こういう時はどうするんだろう。何がどう進むんだろう。父や親せきが
こまごまのことを話し合いだした。喪主は父。親戚代表は父の弟。お寺さんも来て戒名についての相談。通夜と葬儀の時間をお願いした。


お寺さんが帰ると、お車代やお布施の金額を決め、納棺の時間、連絡もれがないかどうか確認、葬儀社も交え棺や祭壇、盛りかご、供花、通夜ぶるまい、初七日の出席者の打ち合わせ、会葬お礼の数、タクシーの手配など見積もりを出してもらう。


母は近所の人にあれこれの時間を伝え、父は淡々と祖父を送り出す行程を決めていった。浩一は口を出す場面はなかったが、ぼんやりといつか自分が父のように仕切らなければならない時が来るということを教えられた気がした。


「浩一、今夜は通夜だから、みんな交代で線香とおりんの番をする。お前も頼むな。」浩一の家の宗教は亡くなった人が迷わず冥土への道を歩くために、目印として夜通し線香の火を絶やさず、おりんをたたく。



納棺がすみ葬儀会場へ移動して、無事に通夜式はすんだ。お客も帰りその夜、交代で
線香番をしているうち、祖父との思い出が鮮やかによみがえりはじめた。

よく散歩に行った。河原に自生する草花の名前を教わった。虫取りも行った。自転車の練習にもよく付き合ってくれた。初めて自転車に乗れた時も祖父がいて、褒めてくれた。


「浩一、よくがんばったのう。転んでもこげるようになったら、楽しいだろう。近所のお兄ちゃんについて行って、もっと遠いところにも遊びにいけるぞ。」そう言われると自分の世界が広がるようで、自分が急に大きくなった気がしたものだ。

自転車に乗ってずんずん進んでいくと、近所の兄貴分たちはもっと先を走って、なかなか追いつけない。それでも追いつこうと一生懸命自転車をこいだ。


どこまで来ただろう。あの兄貴分たちはもう高校生になって、大人用の自転車をこいでいる。浩一の自転車では追いつけない。こんな子供用じゃ無理じゃないか。不公平だ。


取り残されたような不安で心細くなった時、祖父の声がした。「浩一、高校受かったんか。よう勉強したのう。これからもっといろんなことを勉強するんか、楽しいのう。じいちゃんは浩一のことが楽しみじゃ。」


気が付くと浩一は高校の制服を着て、自転車通学をしていた。友達と一緒に片手をポケットに突っ込みどこでも見るように、だらだらと自転車でかたまり流行りの漫画の続きやゲームの話をしている。どこにでもいる高校生の自分だ。


実は高校も大学も行けるところでいいや、と浩一は思っていた。それでも祖父が手ばなしで喜んでくれるのは、孫かわいさだろうと考えていた。「入学祝い、うれしかったなあ」ふと思った。


大学もサークルに入り試験前はノートを貸し借りし、ゼミも興味があってかつ厳しすぎないところを選んだ。そうして就職も、なんとなく興味があって受かるところにすべりこんだ。けれども実家に帰るたび祖父は何も言わず、嬉しそうに浩一をながめていたように思う。

「おい、浩一、眠いなら交代だ。」ふいに父が声をかけ、浩一はわれに返った。時計を見るとほんの30~40分くらいしかたっていない。眠っていたのか?


父に「ごめん、寝てた?」そう聞くと、浩一があまりにも黙り込み、放心状態でおりんをたたいていたのが心配になったらしい。「お前はじいさんっ子だったからなあ」


その瞬間、浩一は罪悪感におそわれた。後悔の涙があふれてくる。なんの後悔だろう。祖父に甘え切って、いつの間にか祖父のいうことをそのままに受け止めていたんじゃないか。


「父さん、俺、じいちゃんに何もしてやってない。小遣いもらってラッキーくらいにしか思わなかった。じいちゃんの期待にあぐらかいてた。もっと本当に喜んでもらえることできなかった。俺・・・」


「浩一、いいんだ。お前はじいちゃんの生きがいだったんだから。いるだけで良かったんだぞ。じいちゃんは別に人より立派になれとか思ってない。お前のおかげで、楽しい余生が送れたんだからな。」


そういわれると、ますます泣けた。祖父の愛情にもっと応えられなかった自分が情けなく思える。「そう思うなら、しっかり最後まで見送ってくれ。じいちゃんの締めくくりにお前が一役買わんでどうする。お前は特別なんだ。」

あの日の父の言葉が胸に刺さったままだ。当たり前にしか思っていなかったこと。でも自分は特別だったんだ。高校・大学とふわふわ生きてきた自分の結果が今ここにある。


きっと祖父には見えていたんだろう。そして、甘やかしたことを祖父なりに少しは後悔したかもしれない。けれど、自分の人生を決めるのは浩一自身なのだ。


どこかでおだててくれる祖父の言葉にのっかって、自分はこれでいいんだ。十分やってきたんだ。そういって、楽に逃げてきたんじゃないか。


祖父は締めくくりの時にはじめてそれを自分に伝えたのではないか。それが真実だろうが、考え過ぎだろうが、今まで気づくことすらできなかった薄っぺらい自分。


祖父の命と引きかえに、想いを交わす機会を容赦なくずどんと締め切られた気がした。帰りの新幹線の中で浩一は、とめどなく湧き上がる情けない想いを擦り切れるほどかみしめた。

忌引き休暇のあけた浩一は、仕事に復帰した。弔電と供花の礼を課長に伝え、留守にしていた間の仕事の詫びとともに手土産を配った。


あれから時間はいつも通りに流れたようだったが、ある日浩一は課長に呼び出された。また何かやらかしたんだろうか?いや、特に大きなミスもないし、何だろう。


「最近はどうだ?」「どうといわれても・・・頑張っているつもりですが。何か問題でもありましたか?」おそるおそる聞いてみる。「いや、君は何だか変わったな。」


「変わったって何がですか?」「以前は自分一人でなんでも済ませようとして、そんなに自信があるのかと思っていたんだが。」いやな感じだ。課長は言葉をつづけた。


「近頃は本当に商品やクライアントの意志を第1に考えるようになったみたいだ。忙しかったら人に頼むことも増えた。周りが見えるようになったというか・・・。」


意外だった。何かまた注意されるとばかり思っていたのだ。「前はとにかく締め切りのために帳尻を合わせるようなところもあったけれど、みんなと話し合って進めるようになったな。これからもその調子で頼んだぞ。」課長は浩一の肩をポンと叩いて出て行った。

その日も残業になりそうだった。あの日声をかけてくれた久美に手伝いを頼むと、気持ちよく引き受けてくれた。「悪いなあ、帰りにご飯でもおごるから!よろしく。」


浩一の恋愛事情もしばらくは締め切りが延びたようだ。決めるのは、自分。


#3000文字チャレンジ
#3000文字締め切り (2020/5/28お題)

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