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世界の中心で夢を見るアジ

アジフライを題材にした小説のアイキャッチ3000文字

今、五剣山(ごけんざん)を海中から眺めている僕はアジ。


大衆魚と呼ばれ高級料亭よりも定食屋で重宝され、スーパーでは3匹298円のパックで売られている一般ピーポーならぬ一般フィッシュ中の一般フィッシュだ。


聞くところによると、人間は残酷にも僕たちの頭を包丁で切り落とし、ためらいもなくお腹から臓物を掻きだし一直線に切り開いて挙句の果てに背骨から小骨まで取り去っていく。


僕たちが海を泳ぎ回って鍛えた自慢の筋肉をそぎ取ってたたいたり細切りにして、「なめろう」だの「たたき」だの、玉子やパン粉をびちゃびちゃつけた上に油で釜茹でにする「アジフライ」にしてしまう。


なんという悪魔のごとき所業だろう!そんなに僕たちを好きならなんで食べちゃうんだ。食べちゃいたいくらい可愛いっていうのは聞くけれど、本当に食べるもんなのか。僕たちはなんかの生贄なのか?ならばせめて「塩焼き」どまりにならぬものか。



君たちはどうもフライが一番お好みのようだ。フライには醤油が一番だの中農ソースが似合うだの、ウスターソース一択だの、いやタルタルソースもシャレオツだ、衣は薄い方がアジフライらしい、違う、ふんわり生パン粉こそがアジの味を引き立てる、などとうんちくを好き勝手にならべたてる。

バカにするんじゃない。僕はダイヤの原石で、君たちのような一般ピーポーの下手なうんちくで語られるような存在じゃない。


たとえ1パック3匹298円で並べられようが、主婦には捌くのが面倒だわ、お手々が魚くさくなってあれがどうもとか、お惣菜コーナーのフライを買えばいいのよとか、骨を捨てるのにゴミ袋が破れるの、とののしられようが、僕の美しさがわからないヤツにあれこれ言われる筋合いでもない。



僕はかの高級魚スズキ目アジ科。スズキくんの親戚だ。どうだ、良く見て見ろ、この大きく透き通った瞳。人間にはつけまつげだの、アイラインだの、はてはカラコンで目を大きくだの盛りまくる輩もいるが、僕は生まれつきこの瞳だから何も盛る必要はない。

この大きな瞳で海中を見回して、ある時は漁船の網をかいくぐり、時に美味しそうなオキアミを見つけて喰いつけば、釣り人がこっそり忍ばせた針がつきささる危機を逃れ、にっくきイルカに追い回されることから身をひるがえして命からがら逃げおおせることだってできるのだ。


なんてハイスペックな瞳!


けれど僕にも夢がある。それはもう少しダイエットしてシュッとなって、胸ビレをうーーーーんと伸ばしてトビウオに進化すること。


トビウオは魚のくせに空を飛ぶ。泳ぐことこそ使命として生まれた魚のはしくれにも置けない…と魚界では言うものの生まれながらに飛行術を持っているのだ。海中を群れてシュピシュピ泳ぎ回り、せいぜいピチャンと跳ねるくらいしかできない僕たち魚界。本当は僻み・嫉み・やっかみなのだ。


イルカに追われていざ!という時、空に逃げられたらどんなに爽快だろう。イルカにひと泡もふた泡もふかせられるに違いない。なんたって400メートルも飛んじゃうんだって。


いくらジャンプが得意なイルカでも400メートルは飛べないだろう。やつらは太っているうえに、水族館とやらで空中回転なんぞやって人間にこびを売り、なんとご褒美に僕らアジやイワシをもらっているという、海界の風上にもおけぬやつらだ。


おっと話がそれた。トビウオと僕は顔だって似ている、あとはああ、この胸ビレがもっともっと伸びたなら…。

なんとか飛べないもんかなあ。時々僕は海面からピシャっと飛び上がってみる。けれどせいぜい10センチか20センチくらいしか跳ねることができない。僕は飛びたいんだ、自由に海の上を飛行したいんだ。


仲間のアジから、何をとてつもないことを言ってるんだと笑われるけれど、いいじゃないか、アジが夢をもったって。


もうひとつの夢は、可愛いあの娘の卵を捕まえることだ。僕もそろそろ適齢期だし、早く結婚して子供を30万匹は作って、親父たちに孫の顔を見せてやりたい。親父やおふくろは声を揃えて言うだろう。これで少々捕まったり食われても、子孫は残るだろう..と。


このあいだ漁港の沖であの娘を見かけたら、けっこうなワガママ魚体に育っていて、この育ち具合ならきっと卵を30万個は産むだろうな。きっとライバルも多いに違いない。でも必ず放卵の時には尾ビレの後ろにピタリとついて、無事産卵できるように励ますんだ。
そしてすぐさまあの娘の卵をひと粒のこらず僕の白子で抱きしめてやる!
そのあかつきには、漁港は僕の子供で埋め尽くされる…。なんて壮観だろう。


だから僕は何者にも捕まるわけにいかないし、日々ハードワークで魚体トレーニングを欠かさない。特に胸ビレ筋は鍛えている。トビウオにでもなれるくらいジャンプの練習だって苦にならない。

ジャンプに飽きてボンヤリ眺めていたのは、僕が育った海…瀬戸内海に面した香川県高松市の庵治町というところの海から見える五剣山という山だ。庵治町は「あじちょう」という。アジの町なんだな。アジの故郷にどストライクな町名だと思わないかい?


ここは海のそばの漁師町だ。そういえば、先日からやたらこの港に人が増えたようだ。僕が幼魚期を過ごした王ノ下堤防に、僕の眼にも眩しすぎるくらいのオーラを放つ可愛い人間の女の子が立っていた。(こんな子もアジフライを食べるのだろうか)


女の子だけじゃなくて男の子もいたな。それからたくさんの大人たち。何が目的なのかはわからないけれど、少なくとも釣りや漁ではなさそうだ。女の子と男の子は「アキ」「サクちゃん」と呼んでいるのに、大人たちからは「ナガサワさん」とか「モリヤマくん」とか呼ばれたりしている。


いったいどれが本当の名前なんだろう。ブリみたいに人間にも出世魚的な、色んな呼び方があるんだろうか?「アキ」と「サクちゃん」は何度も堤防の上を行ったり来たり、かと思えば肩を並べて座って何かを話して、その周りを大人たちが動き回っている。


人間がすることはよくわからない。海に来たらたいてい泳いだり、釣りをしたり、まあ確かに海を見てぼーっとしていることもあるけれど、なんだかそんな雰囲気でもないようだ。

僕はこの庵治漁港が好きだ。もう少し北の方に泳ぐと竹居という漁港があるけれど、流れが早くて泳ぎ着くまでにけっこう体力を使う。水はとてもきれいだけれど少し冷たい。それに今の僕には少し狭すぎるかなあ。


そして何よりも庵治の漁港は景色がいいんだ。五剣山や屋島(やしま)という変わった面白い形の山が見えるし、すぐそばには皇子神社がある皇子山という小高い山もある。夕暮れには海がオレンジ色にキラキラ煌めいて、僕は魚という身を忘れうっとりして波に身を任せることもしばしばだった。


その漁港が突然こんなふうに訳の分からないシチュエーションに包まれた。「アキ」と「サクちゃん」を取り囲む大人たち以外に、いつもは僕を追い回す漁師や、釣りあげて遊ぼうとする悪ガキたち、近所のおばちゃんたち、日を追うごとに二人を見ようとする人間が増えてにぎやかになっていった。


そんなある日おばちゃんたちの黄色い声が聞こえた。
「”世界の中心で愛を叫ぶ”っていう映画をとってるんだってえ!あの大沢たかおっていう俳優さん、ものすごく男前だねえ!!」
オトコマエ?ナニソレオイシイノ?いつか聞いたことがある。隣の漁港で育った幼なじみが江戸前のにぎりになったって。オトコマエのにぎりってのもあるのか、人間は僕たちをどれだけ料理にしたら気がすむんだろう。


なあ、おばちゃん、いつまでもオトコマエのにぎりなんて騒いでないで、そろそろ釜揚げシラス工場の仕事に戻ったらどうだい。まだ小さいのに捕まったイワシの子供たちがグツグツ煮えすぎて可哀そうだろう。


そうして僕はオトコマエってものが見たくてジャンプした。した…した。え?水の中に戻れない!!戻れないどころか海が見える!何が起こったんだ!ああ、もしかしたら、もしかしたら・・・


僕はついに飛べたんじゃないか⁉ああ、きっとそうだ!


眼下には漁船が見える。仲間たちが網に追い込まれないよう逃げている。なじみの島々も見える。その上を僕は滑るように風を受けて、確かに飛んでいる。すごい、奇跡が起こった!飛ぶってこんなに景色が変わるんだ!空はいつものように青い。でも雲が後ろにとんでいく。


ああ、僕は今海を飛び立って、空を飛ぶ。フライ!アジ、フライ!!


落ちないように胸ビレを精一杯広げてみた。と、瞬間お腹の辺りがギュっと締め付けられて苦しくなったと同時に視界が暗黒になった。海中を潜ってもこんなに暗くなったことはない。
一体なにがどうした、僕は訳が分からなくなって軽いパニックを起こしかけた。

窮屈で身動きがとれないし、なんだかヌルヌルして生温かい感触がする。息が苦しい。
「助けて!ここはどこ?」身をよじって叫ぶとしばらくして、やれやれ、という声音で「ここはカモメの腹の中だ」と返事が返ってきた。


「え?カモメの腹だって?嘘つけ」
「お前誰だ?トビウオなのか?」
「僕はアジだけど。海面からジャンプしたら空を飛んでたんだ。」
「ふっ…。アジか。俺はトビウオだ。飛んでたら、カモメのやつにやられちまった。いいか、俺たちトビウオは確かに飛べる。でも、飛んでる間を狙ってカモメに捕まることがあるんだ。鳥にはかなわねえよ…」


そう言われて状況を理解した。海面から跳ねたところをきっとカモメに捕まった…そうに違いない。
もう出られないんだろうな、そう逡巡しているとトビウオの声が聞こえた。さっきより弱々しい。


「もう意識がうすれてきた。だいぶ消化されてるんだろうな。今度外に出たらカモメのフンだ。」
カモメのフン!そうか、食べたらフンになるもんな。でもカモメに捕まったとはいえ、僕は空を飛んだし、空から自分が住む海をトビウオ気分で見たんだ。


もうあの娘に会えないけど、空へ舞い上がって夢はかなえたし、今度はフンになって空中を舞うだろう。そう思うと早くフンになってもいいや、とも思う。
「トビウオ..トビウオ?」もう答えは返ってこない。もうすぐフンになるんだろう。


次に外に出る時は願わくは故郷の海近くでありますように。腹をくくった僕はそう願った。そのうち僕もだんだん意識が薄れていった。ああ、庵治漁港がなつかしい。

ビシャーン!雷のような音と激しいショックで眼が覚めた!眩しい、ここはどこだ?いきなり眼が覚めたのと、衝撃で頭がクラクラしたけれどなんとか気を失わずに、辺りを見回してみた。


ああ、フンになったんだな。もう自分で動けないけれど、僕は人間には食べられることなくフンに生まれ変わった。空が青い。見慣れた特徴的な山が遠くに見える・・・五剣山だ!
ということは故郷の近くに違いない。僕は狂喜した。


神様、ありがとう!訳の分からない見知らぬ土地に、独りフンとして生きるのはあまりにも切ない。
気がつけば眼下に庵治漁港が見える。ああ、僕は仲間を見守り感じながらここで暮らせるんだ。感激に浸っていると、下の方にアジの頃に見た「アキ」と「サクちゃん」、二人を取り巻く大人たちが神社の階段を上ってやってきた。


「では、皇子神社のブランコのシーンの撮影に入りまーす。」そんな声が聞こえた。皇子神社?そうか、ここは皇子神社なんだ。皇子山は知っているけれど、山の上はこんな風になっていたのか。
多分、皇子神社のどこか高いところに落っこちたんだ。


大人の一人が女の子に話しかけているのが聞こえる。
「ナガサワさん、頑張ってこの映画を成功させたら、きっと君は女優として羽ばたいていけるよ。」


ジョユウとして羽ばたく?ジョユウってのも飛べるのか?鳥やトビウオばかりが飛ぶわけじゃなかったんだ!僕は悔やんだ。瀬戸内の魚、太平洋を知らず。
僕はジョユウになれば良かった…。そしたらたかがカモメのフンにならずに済んだかもしれないな。


#3000文字チャレンジ
#3000文字お題「アジフライ」 2020.12.3

official:http://3000moji.com/
3000文字チャレンジ公式アカウント @challenge_3000
運営 なかの様 @nakano3000








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